映画撮影の一環で「子役」に平手打ち、罪にあたらないのか? 2022-05-12


図 この記事のタイプ傾向 (「嘔吐」「犯罪」「協力」「発表」「違法」「愛され」)

子役が何度も平手打ちされて、涙を流す――。
そんな様子をうつした映画『ヘドローバ』(2017年公開)のメイキング映像がネット上で批判されていた問題で、監督の小林勇貴さんが4月28日、インスタグラムで謝罪コメントを発表した。
●監督「あってはならなかったこと」謝罪コメントで、小林さんは「Twitter上で児童虐待ではないかとのご指摘をいただいております」としたうえで「誠に申し訳ございません。
また、私の謝罪が遅くなったことについても重ねてお詫びいたします」などと謝罪した。
撮影に関して、安全な環境での撮影を心がけていたが、「演出プランにはなかったアクションが発生してしまいました」という。
子役がむせて咳き込み、次のセリフが出てこないという状況となり、撮影を止めたが、「すぐに撮影を止められなかったことは自分の過失です」とした。
メイキング映像には、子役の嘔吐するシーンもうつっていたが、「吐しゃ物はダミーの作り物」で、撮影時に子役が実際に吐いたり、大きなケガをすることはなかったという。
それでも、小林さんは「今回の件はあってはならなかったこと」として、お詫びの言葉を重ねている。
一般論として、映画撮影の一環として、どこまで暴力が許されるのだろうか。
河西邦剛弁護士に聞いた。
●一定の場合には、暴行や傷害が刑法的に許容されることも――映画撮影の一環として、暴力はふるっていいのでしょうか?法律的に突き詰めていけば、人に対する「有形力の行使」にあたるならば、暴行罪に該当します。
たとえば、狭い部屋で、ほかに人がいるにもかかわらず、バットをブンブン振り回す行為は、実際に人に当たらなくとも、有形力の行使として暴行罪に該当します。
もちろんブンブン振り回した結果、実際にバットがぶつかってケガをさせれば、より重い傷害罪になります。
なので、映画撮影の演出としても、役者を殴れば、形式的には暴行罪に該当すると考えられます。
ただし、社会通念上、一定の場合には、暴行や傷害が許容されることもあります。
――どんな場合でしょうか?たとえば、医師の手術や美容師のカットが典型例です。
ボクシングなどのスポーツでも、お互いに有形力を連続的に行使しあってます。
映画や芸術の場面でも、一定の場合は許容されることがあるでしょう。
まず、ボクシングがなぜ暴行罪や傷害罪に該当しないのかということですが、これは法律的には正当業務行為といえるからです。
刑法的な言い方をすれば、正当業務行為に該当すれば違法性阻却事由となり犯罪として成立しなくなります。
ほかにも美容師は、客の髪を切るわけですが、これは形式的には暴行罪に該当します。
しかし、正当業務行為といえるので、暴行罪にはならないのです。
映画撮影における暴行も、正当業務行為といえる場合には、暴行罪には該当しないでしょう。
――どういった場合に、正当業務行為といえるのでしょうか?たとえば、よくドラマのワンシーンで女優が男優をビンタするシーンがありますが、映画、ドラマ、舞台でもこのようなシーンがすべて違法となり、その表現が禁止されるというのは妥当ではないでしょう。
明確な線引きがないところではあり、最後は必要性と相当性から具体的に判断せざるをえないところです。
だからこそ、その場の責任者である監督やプロデューサーには強い責任が生じるともいえるでしょう。
●子どもの場合は結論がちがってくる可能性――子役の場合、どうなるのでしょうか?正当業務行為以外にも、「被害者の承諾」があれば、違法性阻却事由となり、犯罪として成立しません。
ただし、形式的に「承諾」があるというだけでは違法性阻却事由にはなりません。
被害を受けた本人が真意として承諾しており、それが社会的に相当であることが必要です。
たとえば、ヤクザの指詰め行為は、たとえ本人が承諾していたとしても社会的に相当とは言えません。
今回のケースでいえば、子どもが対象になっていますが、民事・刑事に共通する考え方として、未成年者はかならずしも自分の意思を適正に表示できるとは限らないという考え方があります。
2022年4月から成人年齢が引き下げられましたが、未成年者の契約は原則として取り消すことができるとされています。
13歳未満の者に対する強制わいせつ罪や強制性交等罪は、たとえ被害者の同意があっても成立します。
未成年者というくくりではありませんが、性的なことについて適正に判断できる能力が13歳未満の者には備わっていないとみなしている一例といえるでしょう。
このように「未成年者は適正に意思表示できるのか」という大きな問題があります。
形式上は承諾していたとしても、適正な意思表示に基づく承諾とはいえないと判断される可能性が十分にあります。
今回のように、形式的には明確に拒否はしておらず一見受け入れているように見えても、実際は本心を伝えられず、心に傷が残る可能性も十分にあります。
暴行罪などの責任を問われる可能性はあります。
たとえ、刑事事件にならなかったとしても、監督やプロデューサーなど、その場の責任者には民事上の損害賠償責任が発生することも十分に考えられます。
【取材協力弁護士】河西邦剛(かさい・くにたか)弁護士「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。
多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。
日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。
「清く楽しく美しい推し活~推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
(https://news.goo.ne.jp/article/bengoshi/life/bengoshi-topics-14457.htmlより引用)

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