コロナの罰則…日本社会で強まる「厳罰主義」 自ら“警察”をやるのは「問題」の風潮も 2021-04-03


図 この記事のタイプ傾向 (「注意」「新型コロナウイルス」「萎縮」「厳しい」「懸念」「怖い」「大切」「なんと」「迷惑」「やむを得ない」「支援」「犯罪」「衝撃」「期待」)

(https://news.goo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2021033000064.htmlより引用)
 感染症法や動物殺傷、大麻使用──社会は厳罰化に進むが、はたして効果的なのか。
厳しいルールが敷かれることで「萎縮につながる」との声もある。
背景には何があるのか。
AERA2021年4月5日号から。
*  *  * 3月24日。
兵庫県明石市議会の定例会最終日で「明石市新型コロナウイルス感染症の患者等に対する支援及び差別禁止に関する条例」の制定案が可決された。
5条5項にこうある。
「感染症法第80条又は第81条の規定にかかわらず、これらの条に規定する行為を行った市民の事情等に配慮し、寄り添いながら支援を実施する」 2月3日に成立した改正感染症法では、感染者が入院を拒否したり入院先から逃げたりすると50万円以下の過料が科せられるようになった(80条)ほか、濃厚接触者を特定するための保健所による疫学調査を拒否した場合も、30万円以下の過料の対象となった(81条)。
 反対に、明石市条例では「寄り添いながら支援」をうたう。
罰則の適用は保健所を設置する自治体の判断に委ねられるが、泉房穂(ふさほ)市長は任期中は罰則を適用しない方針。
取材にこう語った。
「そもそも感染した人を罰するなど間違っている。
『北風と太陽』の話ではありませんが、何でもかんでも北風を吹かせて罰則を加えても目的は達成できません。
必要なのは支援です」 が、社会が向かうのは厳罰主義だ。
それは刑事司法の世界にとどまらない。
■大した罪にならない 2017年8月、埼玉県の元税理士の男が動物愛護法違反で逮捕され、懲役1年10カ月執行猶予4年の地裁判決が確定した。
男は動物を虐待する様子を動画に記録し、匿名のファイル共有サイトに投稿していた。
「動物環境・福祉協会Eva」の理事長を務める俳優の杉本彩さんは衝撃を受けた。
「こんな残虐なことができるのかという衝撃と、裁判の結果に対する衝撃の両方がありました。
法定刑が非常に軽微であるという問題がそこにありました。
まずやるべきは動物の殺傷や虐待についての厳罰化なのではないかと考えました」 その頃、動物殺傷罪が「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」で、器物損壊罪より軽かったのを知った。
協会ではその後、厳罰化を求める署名活動を展開し、改正動物愛護法は実際に19年6月に成立。
「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」になった。
 殺しても大した罪にならない──。
事件当時、そうした傾向がある人たちが集うサイトに、こんな言葉が書き込まれていたのを杉本さんは確認した。
「厳罰化ですべての問題が解決するとも思っていませんが、こうした層には抑止力が期待できるかもしれません」 こうしたやむを得ないと思える厳罰化の一方で、行き過ぎとも捉えられるケースが出てきている。
厳罰主義への傾向については、立命館大学の富永京子准教授が注目しているデータがある。
シノドス国際社会動向研究所(東京)とともに新型コロナに関連して昨年10月に行った意識調査の結果だ。
■公的な存在に介入期待 全国の6600人から回答を得た調査で、自粛や休業の要請に従わない事業者に「貼り紙を貼って『活動をやめろ』と警告すべきだ」「店名をツイッターで広めてもいい」と考えるのがそれぞれ約1割だったが、約4割は「メディアはもっと注意を呼びかけるべきだ」、3割超が「自治体は店名を公表するべきだ」と考えていたという。
「つまり、自分たちの間で“警察”をやるのは問題があると思っている一方で、特に喫緊の課題に対しては公的な存在に介入してなんとかしてほしいという、厳罰主義的な感覚が強く表れているのだと解釈しています」(富永准教授) 筑波大学の原田隆之教授(犯罪心理学)は、厳罰主義の背景として、(1)社会で被害者が声を上げる機会が増えた、(2)SNSなどで犯行現場が可視化され感情がかき乱される機会が増えた、(3)もともと処罰する法律がなかったり刑罰が不十分であったりした、の3点を挙げた。
 あおり運転の罰則などは、(2)や(3)の典型的なケースだろう。
ただ、厳罰方向への変更とはいえ、男性目線で作られた古い法律が現代の実情に合わないことから刑罰の重さを引き上げているケースなどは、「厳罰化」ではなく「適正化」だと原田教授は考えている。
性犯罪などの「適正化」がそうだ。
■犯罪者としてレッテル 一方で、むやみな厳罰化は逆効果であるとも指摘する。
「犯罪心理学の分野では、厳罰にすると逆に犯罪率や再犯率がわずかに上がるというエビデンスがあります。
政治家も一般の人たちも犯罪や逸脱行為に対して罰という対処しか思いつきにくいのですが、対処の方法はある。
私が常に述べているのは治療や福祉、教育などヒューマンサービスと呼ばれるものです」 わかりやすい事例が、薬物犯罪に対する罰則のあり方だろうか。
国内ではちょうど1月に大麻の規制に関する検討会が立ち上がったばかりだ。
 現在、大麻取締法で罰則を設けているのは「所持」や「栽培」についてで、「使用」は対象とはなっていない。
神社のしめ縄などに使う大麻草を合法的に栽培している農家の人たちが、作業中に成分を吸い込む可能性などに配慮しているとされる。
 詳細は省くが、海外では医療用大麻の効果を評価して規制を緩める方向に向かいつつある、というのが一般的な理解とされている。
一方、国内では検討会を立ち上げて医療用大麻の是非についてだけでなく、「使用」に罰則を設けるかどうかも検討の対象としている。
 メディアを通じて反対の声を上げている亀石倫子弁護士が重視しているのは、大麻の使用に被害者がいないことだという。
このため、規制薬物の使用を犯罪としてとらえるのではなくて、個人の健康問題、社会の問題と受け止め、どうしたら薬物に過度に依存せず健康を維持し、経済的な問題や家庭の問題などを解決できるかを支援するような方法が必要だと考えている。
 亀石弁護士は指摘する。
「犯罪者としてレッテルを貼って社会から排除することのほうが、その人や社会にとってのデメリットが大きい。
大麻使用罪創設の議論は、取り締まる側の思惑だけで進めてはいけないと思っています」■ルールの設定で「拘束」 評論家の荻上チキさんも、同じ考えだ。
どんなデメリットがあるのか。
「長い懲役で社会から遠ざけることによって社会復帰はより困難になり、場合によっては旧来の仲間のところに戻っていく可能性もあります。
社会との接点を切らすのではなくて、人為的に接点を作れるような形にすることが大切です」 荻上さんがこう話すのは、特に検挙者のうち再犯した人の割合を示す「再犯者率」に注目してのことだ。
昨年1年間に警察が把握した刑法犯は61万4303件(暫定値)で、前年より17.9%減少している。
戦後最少を6年連続で更新したといい、犯罪自体は減っているのが現状だ。
そんな現状だからこそ、次のように考える。
「再犯者率を下げなければ刑務所などに再入所する数がより下がっていかないという面があります。
そのための課題が具体的な包摂ケアだと考えています」 厳罰主義をめぐっては、前出の富永准教授は別の視点からも懸念を抱いているという。
厳罰化による若年層の「萎縮」についてだ。
富永准教授によれば、内閣府の国際比較調査では、「他人に迷惑をかけなければ何をしようと個人の自由だ」と考える若年層の割合は4割であり、他国の約2分の1にとどまる。
「厳罰主義を強めたときに一番怖いのは、さらにそうした『自粛』傾向が強まり、言動の萎縮につながる効果が発揮されることです。
ルールを設定すると、若い人ほど、そのルール以上に自分の振る舞いを拘束しかねないのです」 影響はさまざまにあるだろう。
慎重な議論が必要だ。
(https://news.goo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2021033000064.htmlより引用)

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