被害者3人のうちの1人は死亡した主婦の夫で、脅迫電話の録音データを持ち込むなど佐賀県警に何度も相談したが、被害届を受理されず主婦の事件が防げなかったと訴えている。
山本、岸両被告は19年10月、佐賀県基山町の主婦、高畑(こうはた)瑠美さん(当時36歳)の遺体を車で運んだとして福岡県警に死体遺棄容疑で逮捕された。
その後の捜査で、高畑さんと夫裕(ゆたか)さん(35)、知人3人の計5人に対する恐喝事件(未遂を含む)の疑いが浮上。
いずれも福岡県警、福岡地検が立件し、山本被告はうち3事件、岸被告は1事件で、有罪か無罪かを先に判断する区分審理がされていた。
判決によると、山本、岸両被告は16年4〜9月に知人男性(当時36歳)から計35万5000円を、山本被告は18年10月〜19年4月に美容師の女性(当時26歳)から計149万円を脅し取り、19年8〜9月に裕さんから計305万円を脅し取ろうとした。
両被告は無罪を主張していたが、部分判決は被害者らの証言は信用できると判断。
岡崎裁判長は、裕さんが脅された通話の録音データも恐喝の事実を「強く裏付ける」とし、有罪の理由に挙げた。
山本、岸両被告は、高畑さんの事件で傷害致死、監禁、死体遺棄などの罪でも起訴されている。
両被告と共謀したとして元暴力団組員の田中政樹被告(47)も死体遺棄と恐喝未遂の罪に問われており、田中被告には1月21日に判決が言い渡される。
山本、岸両被告の高畑さん事件の公判は2月2日から裁判員裁判での審理が始まる。
【一宮俊介、宗岡敬介】 ◇恐喝の手口、明らかに 死亡した高畑瑠美さんの夫裕さんに対する恐喝未遂事件も先行して審理され、山本美幸被告の有罪が認定された。
公判で明らかとなったのは、山本被告らの背後に暴力団がいることを印象づけて恐怖心をあおり、暴力も使いながら被害者を支配下に置く恐喝事件の手口だった。
山本被告は、実際は他界している父親が暴力団の幹部だと書かれた名刺を見せたり、知人で既に暴力団を抜けている田中被告を「山口組幹部取締役」として携帯電話に登録しているのをちらつかせたりしていたという。
そのうえでことあるごとに被害者と田中被告を電話で会話させ、田中被告が怒鳴り散らしていた。
裕さんも、ホストクラブで高畑さんが借金したとの名目で金銭を山本被告から要求され、電話で田中被告から怒声を浴びたと証言。
通話は3時間を超えたこともあったという。
裕さんは法廷で「早く支払わないと危ないと思った。
死んでしまった方が楽だと思うほどだった」と語った。
裕さんは、佐賀県警鳥栖署に相談したことも法廷で明かしたが、仕事先の大阪で受けた脅迫電話で相談した際は「大阪管内なので、鳥栖管内で証拠を押さえたらまた来署してくださいと言われた」と述べた。
通話の録音データは公判で検察側が証拠として提出。
裕さんは当時、同じデータを佐賀県警に持って行ったが、冒頭を聞いただけで対応してもらえなかったという。
山本被告は被害者から金を脅し取る理由について被告人質問で口にしたことがある。
「(指名するホストが)1位になったから次の月も1位にならないと。
次の月に落ちないため」 高畑さんは死亡する約7カ月前から山本被告とホスト通いするようになり、次第に家に帰らなくなった。
遺族は、裕さんへの恐喝被害とともに高畑さんを山本被告から引き離したいと再三にわたり佐賀県警に相談していたが、被害届は受理されなかった。
なぜ高畑さんは山本被告に巻き込まれたのか。
2月に始まる高畑さんの事件の公判で山本被告らが何を語るのかが注目される。
【一宮俊介】 ◇区分審理 被告が複数の事件に関与しており、一括で扱うと裁判が長引く恐れがある場合に、裁判員の負担を軽減するため、裁判をいくつかに区分する制度。
最後に審理する事件を除いて、区分した事件ごとに有罪・無罪を判断する「部分判決」を出す。
裁判員は事件ごとに交代するが、裁判官は原則同じ。
最後の区分を担当する裁判官と裁判員は担当分の有罪・無罪を判断し、有罪とされた事件全体の量刑を決める。
(https://news.goo.ne.jp/article/mainichi/nation/mainichi-20210106k0000m040180000c.htmlより引用)